不振子会社の出向者への賞与を肩代わりしたら寄附金になる?

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出向者への賞与肩代わり(業績不振の場合)

親子会社における金銭のやり取りというのは、いつもなかなか難しいものがあります。

たとえば、経営不振の子会社に対して親会社から資金援助を行った場合、ごく例外的なケースを除いてそのお金は「寄附金」となります。

この寄附金は、どんなに払っても税務上の費用(損金)にできないことがあります。
なぜなら、これを無制限に損金に認めてしまうと、儲かっている会社の利益を赤字の会社に移転し、グループ全体の税金を不当に下げることができてしまうからです。

では、このような親会社から業績不振の子会社への資金援助(金銭交付)が、「親会社から出向した社員の賞与を払うため」だったらどうなるでしょうか。

今回はそんなケースの取扱いをご紹介します。

本稿は税理士の古旗淳一が、一般的な取引を想定した私見を執筆しております。

1.事例の詳細

今回想定するのは以下のようなケースです。

  1. 親会社は従業員Aを子会社へ派遣していた。
  2. 当初、Aの賞与は子会社が負担する取り決めだった。
  3. その後子会社の業績が悪化し、Aへの賞与を負担できなくなった。
  4. そこでAの賞与は親会社負担に変更し、親会社から子会社に資金を渡し、子会社はAに支給した。

さて、この場合、親会社から子会社への賞与資金の交付は、寄附金でしょうか?賞与でしょうか?

2.出向者に対する給与の較差補填

2-1.給与水準は会社によってまちまち

まず原則的な話ですが、出向元企業(本例では親会社)と出向先企業(本例では子会社)の間で給与水準に較差(かくさ)があるというのはよくあることです。
出向元企業のほうが出向先企業より給与テーブルが高い場合、本来親会社に就職したはずの出向者にとってみれば、会社の命令で出向した結果低い給与テーブルに乗るというのでは、とても不満が溜まることです。

会社としてはこのような人に退職されても困るため、出向元企業の給与テーブルのままで出向者に給与を支払うのが一般的です。これを「給与較差補填(きゅうよかくさほてん)」と言います。

2-2.差額は誰が負担するのか?

この給与較差補填については、出向元である親会社が負担することが一般的です。

つまり、子会社の給与水準による給与額は子会社負担とし、較差補填については親会社が負担します。たとえ子会社が一括で本人に支給し、後で出向元企業に較差の額を請求する場合でも、親会社側では給与として扱います。

2-3.税務上も認められている

このようなグループ法人間での給与の分担は慣例上よくあることですし、経済合理性も十分あることから、税務上も同様の扱いが見止められています。すなわち、親会社から子会社に支払う較差補填額は寄附金ではなく給与になります。

ちなみに親会社から子会社への支払い時は源泉徴収は必要なく、子会社が本人に支払う総額に対して源泉税が差し引かれます。

3.経営不振の場合の較差補填額

さて、では当初は子会社が分担する予定だった出向者の賞与を、子会社が経営不振により支払えなくなったために親会社が負担したときには、親会社から子会社に支払われる賞与資金は寄附金でしょうか?較差補填額でしょうか?

実は、課税庁が法人税法の運用解釈を公表している「法人税法基本通達」で取り扱いが定められています。

3-1.法人税法基本通達の解釈

法人税法基本通達には以下のように記載されています。

出向元法人が出向先法人との給与条件の較差をほてんするため出向者に対して支給した給与の額(出向先法人を経て支給した金額を含む。)は、当該出向元法人の損金の額に算入する。

(注) 出向元法人が出向者に対して支給する次の金額は、いずれも給与条件の較差をほてんするために支給したものとする。

1 出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため出向元法人が当該出向者に対して支給する賞与の額

2 出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額

(法人税法基本通達9-2-47)

出向先法人(本件では子会社)が経営不振によって支払えなくなった場合、出向元法人(本件では親会社)が支給する賞与の額は、出向元法人の損金の額に算入する(寄附金とはならない)とされています。

本件では親会社が直接支給するのではなく、一旦子会社に支払った上で本人に支給するケースを想定していますが、経営不振による肩代わりが賞与として認められる趣旨(後述)を考慮すると、同様に給与較差補填額として取り扱われるべきと考えられます。

3-2.肩代わりが給与較差補填額扱いになる理由

出向というのは、出向元企業の従業員としての雇用契約を残したまま他社に移動することです。出向者の帰属はあくまでも出向元企業にあります。
だからこそ、出向先企業との給与水準の較差は出向元企業が責任をもって負担することができます。もし完全に転籍した場合は転籍先企業が責任をもって支払うことになるので、このような場合の給与較差補填は原則として認められません。

転籍者の給与較差補填については、税務会計情報ねっ島[外部]に記事がまとめられています。

さて、今回のように出向先企業の業績不振により賞与が支払われなくなってしまうケースは、もし出向がなければ発生しない不利益であり、その意味では給与水準の較差と同じ性格のものです。この差を出向元企業が責任をもって負担することは何ら不自然ではなく、当然に給与較差補填額と同様に扱われるべきと考えられます。

3-3.悪用した税逃れは厳禁!

さて、「じゃあ親会社から子会社への寄附行為は、出向者への賞与肩代わりってことにすれば、寄附金にならないってことだな!」と思うかもしれませんが、それは非常に税務リスクが高い考えです。

通達にも「出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため」と断り書きがされていますので、寄附金にならないためには以下の要件を満たす必要があります。

  • 経営不振であること
  • それによって、賞与を支給できない合理的な理由があること

単に今期の業績が計画より悪いとか、資金繰りが厳しいといった理由では認められない可能性が高いと思われます。また、この規定を使って親会社の利益を無理に圧縮しようとしていると疑われるような場合には、「同族会社の行為計算否認」という規定により無理やりにでも税務否認を受ける可能性があります。

もし今回のようなケースに遭遇した場合は、経営不振を説明する客観的な根拠と、子会社側で支給できない合理的な理由を整理し、しっかりと理論武装しておく必要があるでしょう。

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