課税?不課税?「立退料」の消費税区分の判定例

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立退料の消費税

ビルの建て替え工事や大型テナントの出店などで、テナントで入っている会社に「立退料」が支払われることがあります。

この金銭の授受は課税取引でしょうか、不課税取引(課税対象外取引)でしょうか。今回はどのように考え、判断すべきかについて解説します。

本稿は税理士の古旗淳一が、一般的な取引を想定した私見を執筆しております。



1.課税取引の判別基準

課税取引か不課税取引かを判断するときは、「消費税の課税取引の4要件」というものを満たす必要があります。

これは、消費税法の始まりで「消費税を課税するのはこういう取引ですよ」と定義されているもので、この4要件を満たさない場合は自動的に不課税取引になります。

消費税の課税取引の4要件は以下のとおりです。

  • 国内において行われる取引であること
  • 事業者が事業として行う取引であること
  • 対価を得て行う取引であること
  • 資産の譲渡等(資産の譲渡、資産の貸付、役務の提供)であること

つまり、立退料が上記4要件をすべて満たせば課税取引、満たさなければ不課税取引になります。

2.立退料は4要件を満たすのか?

では、立退料は4要件を満たすのでしょうか。

2-1.満たしている2つの要件

まず、4要件のうち最初の2要件である、

  • 国内において行われる取引であること
  • 事業者が事業として行う取引であること

こちらは、国内の不動産であれば国内取引に該当しますし、会社が行う取引はすべて事業行為であるため、両方の要件を満たしています。

2-2.残りの2つは微妙な判定

次に残りの2要件、

  • 対価を得て行う取引であること
  • 資産の譲渡等(資産の譲渡、資産の貸付、役務の提供)であること

この2つを満たすかどうかはケースバイケースです。

なぜなら立退料は、借家を追われる店子に対する営業補償金の性格が強い場合もあれば、いわゆる「地上げ」の対価として支払われる(賃借権の売買)場合もあるからです。

したがって、実際にどのような性格の金銭なのか、実態を見て判断する必要があります。

3.実態別消費税の課税判定

それでは、取引の実態に応じてどのように判断が変わるのか確認しましょう。

3-1.営業補償金としての立退料

建物の建て替えなどのために店子に出て行ってもらう補償として支払う場合には、営業補償金としての性格が強いため、不課税取引になります(法人税法基本通達5-2-7)。

営業補償金が不課税取引に該当する理由については、「弁償金や損害賠償金、営業補償金が消費税不課税になる理由」も併せてご覧ください。

3-2.移転補償金としての立退料

賃借人側で発生する移転費用に対して、補償金として支払われる立退料であれば、損害賠償金としての性格が強いため、こちらも不課税取引になります。

もっとも、賃借人側で移転費用を立て替え払いし、実費を賃貸人が負担した場合には、賃貸人が移転費用を負担した形になるため、課税取引になります。

3-3.賃借権(借家権)の譲渡対価としての立退料

建て替え等ではなく、引き続き存続する建物の店子に対して、別の入居希望者がお金を払って出て行ってもらうことがあります(テナントの「地上げ」)。

このような場合は、入居する権利である「賃借権」という資産を売買したようなものですので、課税取引になります(法人税基本通達5-2-7)。

なお、借地権の場合は、非課税取引として扱われます。

補足:立退料をめぐる裁判例

大家が店子に対して契約解除を申し入れ、支払った立退料について、大家はこれを「店子から賃借権を買い取ったものである」と主張して仕入税額控除した事例がありました。裁判になり、大家は敗訴しています。

大家が支払った立退料が課税取引として認められなかった理由として、判決では、「課税取引として認められるのは、資産が同一性を保ったまま移転した場合であって、買取人が大家である場合は賃借権が消滅しているから、資産の譲渡とは認められない」という判断が下されています。

おわりに

上記のように、一言に立退料といっても、その交渉過程や契約内容から実態を判断し、適切な課税区分を選択する必要があります。また、税務調査で質問されたときにきちんと答えられるよう、きちんと書類も整えておきましょう。

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