採用内定者を囲い込むために、内定式や内定者懇談会を開くことがあります。
今はさすがに旅行に行ったりはしませんが、ホテルを借りて美味しいものを提供することは、人手不足の昨今、ビジネス上の重要な人事戦略といえるでしょう。
さて、経理として気になるのは、これらの費用がどの勘定科目に当たるかです。ぱっと思い浮かぶだけで以下のように出てきます。
- 接待交際費
- 福利厚生費
- 採用教育費
- 会議費
実は、単に内定式や内定者懇談会といっても、その内容は会社によって千差万別であり、勘定科目はその中身を実質的に検討して判断する必要があります。
そこで今回は、内定式・内定者懇談会を正しく仕訳するための判断方法をご提案しましょう。
本稿は税理士の古旗淳一が、一般的な取引を想定した私見を執筆しております。
1.実際に何をしているかで勘定科目は変わる
会の名前は「内定式」「内定者懇談会」「内定者説明会」あるいは「入社前研修会」であっても、実際にその会で何をしているかによって勘定科目は異なります。
まずはどのような実態なのかを担当者に確認したり、当日の資料を入手したりして、下記のいずれに該当するかを検討しましょう。
1-1.内定者の歓心を誘う性格が強い場合
ホテルの大会議室を貸し切り、豪華な食事とお酒を提供して、業務に関することは乾杯前に人事部長がスピーチするぐらい・・・という中身であれば、ほぼ接待交際費に該当します。
内定者は事業発展のために大切な労働力を提供しようとするお客様ですので、そのお客様をもてなす会とみなされます。この場合、会場費・飲食費はもちろん、支給交通費も交際費になります。
近年景気がよく、人手不足も深刻ですので、最近になってこのような内定式に変わっていることがあります。昔からの経理処理で本当に問題がないか、一度検討してみましょう。
1-2.入社前研修の性格が強い場合
きちんと何時間か机に座ってもらい、会社側から会社のルールや社会人の心得を説明したり、工場見学をさせたりする場合は、採用教育費で問題ありません。
内定者は「従業員に準ずる立場の者」ですので、おもてなしを受けることもあれば、新人社員としての研修を受けることもあります。後者であれば、会場費や支給交通費などは採用教育費(その他、会場費、会議費、旅費交通費なども可)になります。
お昼にお弁当などを用意しても、よほど豪華すぎない限りは採用教育費や会議費で処理できます。
一方、研修後に居酒屋で懇親会を開いた場合はさすがに交際費ですので、昼の研修とは別物として処理しましょう。
1-3.社員や内定者同士の交流会・懇親会の性格が強い場合
社員や内定者同士の意見交換や懇親を目的として、豪華すぎない範囲で食事会を開いた場合は、福利厚生費にできる可能性が高いです。
社員同士の交流を促進してのレクリエーションの意味合いが強く、内定者は社員に準ずる立場として参加しているわけですから、よほど豪華な食事や高価なレクリエーションでない限り、福利厚生費として認められるでしょう。
ただし、福利厚生費は全社員一律に参加の権利を有することが要件ですので、参加する社員や内定者を曖昧な基準で選別したり、開催する年としない年が意味もなくまちまちだったりすると、接待交際費と認定される可能性もあります。
2.ルールづくりと定期的な確認を
採用人数が多い会社の場合、1年間に数回内定式を開くこともあるため、経理が毎回内容を確認して勘定科目を検討するのは大変です。
一般的には、どのような会を開くのか、人事部に大まかなルールがありますので、その範囲内であればどの勘定科目で処理するのかを経理部でルール決めしておきましょう。そうすれば、普段と金額が大幅に違うときだけ人事部に問い合わせればよいことになります。
ただし、昨今の人材不足のように、経営環境の変化で実態も大きく変化することがあります。数年に1回は実態が変わっていないか人事部に確認し、ルールが実態と乖離しないように気を付けましょう。
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