6月2日に、東証より3月決算会社の開示状況をまとめたレポートが公表されました。
決算短信の様式自由化についての対応が総評されており、「雰囲気」が読めるかと思います。
さて、レポートによると、平成29年3月決算上場会社の決算発表の所要日数は39.3日で、前年より0.3日早くなったそうです。とはいえこの辺は曜日にも左右されますので、0.3日は誤差の範囲じゃないでしょうか。
もう10年以上前から、決算の早期開示が求められていますし、開示内容を簡略化し、今年は決算短信の様式自由化も打ち出しました。しかしながら、そこまでの効果が出ていないようにも思われます(まぁ1年目は皆さん様子見でしょうけど)。
公認会計士の武田雄二さんのブログでは、30日開示企業の減少を嘆かれています。
なぜ、決算開示の早期化は浸透しないのでしょうか?また、何から始めればいいのでしょうか?
今回はそんな疑問に対する私見を述べさせていただきます。
1.決算の早期開示の目的
上場会社は、決算は45日内に発表することが上場ルールで定められています。したがって、ほとんどの会社は45日以内に開示を終わらせます。
しかし、それとは別に、「なるべく30日以内に開示するよう努力してね」という呼びかけが東証や金融庁からされています。また、30日は無理でもなるべく早く開示するよう再三呼びかけが行われています。
なぜでしょうか。まずはその目的を考えてみましょう。
1-1.決算早期開示は誰のため?
なぜ正式なルールとは別に、30日開示、早期開示がオフィシャルに求められているのでしょうか。その理由は、ひとえに投資家のためです。
市場の半歩先を行く投資家にとって、決算開示までに1カ月半かかるのはなかなかじれったいようです。個人投資家であれば我慢してもらいたいところですが、百億千億単位のお金を動かす機関投資家やファンドマネジャーにとっては非常に重要な問題です。
そこで、企業には「なるべく早く、かつ、正確に」重要な投資情報である決算情報を開示するよう強く要請されています。
1-2.速報性が市場の魅力を作る
東証や金融庁としては、これによって国内外から投資マネーを呼び込みたいという思惑があります。
早く、正確な情報が溢れる市場は投資家にとって魅力的ですので、市場を活気づけ、海外からの資金を国内に呼び込み、また国内の資金の流れを円滑にできるという計算です。これは日本経済にとっては確実にプラスになります。
2.早期開示が進まない5つの理由
しかしながら、早期開示は遅々として進んでいないのが現状です。なぜでしょうか。
その理由はいくつか存在すると思われます。
2-1.企業のメリットが薄い
上述の早期開示のメリットは、投資家と市場、国家にとってのメリットです。
これに対して、企業側としては早期開示するメリットはあまりありません。
決算が早ければ早いほど株価が上がるということはありません。単純に業績がよければ上がり、悪くなれば下がります。
もちろん世の中には社会貢献の度合いで投資する機関投資家もいますので、まったくゼロではないと思いますが、後述のリスクに対して強いメリットとは言えません。
2-2.企業のリスクが大きい
決算短信は会計監査の対象外です。したがって、監査をまったく受けなくても開示することができますし、そこでの決算数値が間違っていることに対して公的なペナルティはありません。
しかし、実際には監査がほぼ完了するまで公表しないのが一般的です。
なぜなら、会社として正式に公表し、株価に強い影響を与える情報ですので、間違いなど許されないからです。理由にもよりますが、大幅な修正が入ったら普通は(粉飾関係と邪推されて)株価は下落しますし、責任者のクビが飛ぶぐらいの話に発展します。
そのため、監査がまだ道半ば段階で決算を公表するということは通常ありえません。
2-3.監査も待たされる
3月決算の場合、監査法人も大忙しの時期ですので、日程調整が大変です。普段早期開示していない会社が急に早期開示しようとしても、監査法人側とスケジュールが合わないこともあります。
なんか釈然としない理由ですが、監査法人も人件費をかけてやっていますので、これは仕方のないことかもしれません。
2-4.決算発表日が事前に予定されている
決算発表は、当日直前まで作業して完成したら即発表するのではなく、実際には2~3日前には完成しています。この分を早めることは物理的には可能です。
しかし、決算発表日は事前に予定日を決め、公表するものですので、最初に多少のトラブルを織り込んだ余裕のある日程にすることが一般的です。
決算発表日を直前になって延期すると、投資家は大きなトラブル(監査法人との意見対立など)を連想し、株価に大きな悪影響を与えます。
2-5.残業が増える
最後に、非常に重要な問題として、残業が増えます。
決算期はただでさえ大忙しで、4月は他の月の数倍の残業が発生します。このうえで決算を前倒しすると、その時間はさらに膨れ上がるでしょう。
残業に厳しい昨今、「そこまでやる必要があるの?」という声が出るのは当然だと思います。
3.できることから始めよう
弊社は経理パーソンの短期派遣や経理高速化コンサルティングの会社です。そのため、政府が無理やり30日開示を義務付けたら受注が増えるだろうなぁとは思います。
また、企業の社会的責任として、「早期開示なんか目指さなくていいよ」ということもできません。
ただ、私も企業の経理畑にいた経験から申し上げると、決算早期開示のために無理することはないと思います。
とはいえ、早期開示が投資家、市場、ひいては国家にとって有益であり、社会の公器である上場会社が努力する義務はあると思います。最後に、どのように努力の方向性について私見を申し上げます。
3-1.会社にもメリットがある努力から始めよう
会社内部にもメリットがある経理の努力をしましょう。
たとえば、月次決算も含めた決算作業を見直し、人員配置なども含めてもっと効率的に結果を出す方法はないかを考えましょう。
これは残業時間の削減やコストダウンに非常に大きな効果がありますし、この積み重ねが決算の早期開示につながっていきます。
人員配置と効率化については「『バベッジ原理』で実現する低コスト・高品質な経理体制」で書いていますので、ご参考にしてください。
3-2.抜本的な発想の転換が必要
経理高速化のためには、自由で抜本的なアイディアが必要になります。
経理チームの中でブレインストーミングしたり、担当者のテクニックを別の担当者に横展開したりして、新しい方法を探していきましょう。これはなかなか楽しい作業で、楽しむことが成果の加速にもつながります。
たとえばExcelのアイディア出しについては「Excelを最大限活用して経理高速化を実現するための発想法」に詳しく書いています。Excel以外の発想法にも展開できますので、ぜひご覧ください。
ちなみに、弊社でもアイディア出しのお手伝いをさせていただいておりますので、ぜひご相談ください。経理チームが楽しみながらアイディアを出し合える環境づくりをさせていただきます。
3-3.システムは最後!
最後に留意点です。
経理業務を効率化しようとすると、システム投資を考える人が多くいらっしゃいます。
私の経験で申し上げると、経理が早くない会社は、システム投資以前に問題があります。
Excelも使い方次第では万能ツールになりますし、そもそも伝票の回し方に問題があるなど、アナログな部分にも改善点は多くあるというのが大半です。
システムは大金がかかります。そして、融通が利かないことが往々にしてあります。
システム投資の前にアナログの業務を見直し、システム投資によって何を効率化できるのかを明確化したうえで、初めて投資を行いましょう。そうでなければ宝の持ち腐れのことも多いですし、最悪業務が大混乱して逆効果になることもあります。
おわりに
決算の早期開示は確かに重要な社会的意義がありますが、容易ではありません。
個人的には、むしろ残業代の抑制、ワークライフバランスといった社会タスクのほうが重要であろうと考えています。
経理の皆様には、無理のない範囲で、しかし志は高く経理業務の高速化を目指していただきたいと考えています。