経理にとって、会社法は切っても切れない関係です。会社法では経理を株主の権利を守るために必須の会社の義務として位置付けており、経理は会社法制の一部といってもいいぐらいです。
しかしながら、長年経理に携わっている人でも、案外会社法はよくわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで、【入門!経理の会社法制】と題して、経理が最低限知っておくべき会社法の基礎をシリーズで紹介したいと思います。
第1回の今回は、本当に基礎の基礎ですが、「株式会社とは何か」について取り上げます。
1.株式会社とは何か?
1-1.株式会社は「法人」である
まず、会社のことを指して「法人」という呼び名もあることはご存知かと思います。
法人とは、人間(自然人)に代わって「権利義務の主体」となることができる団体です。ここで権利義務の主体とは、資産を所有したり借金をしたり、取引を行ったりすることをいいます。たとえば、法人が所有している資産は代表者の物ではなく、法人そのものの所有物ですし、契約を結ぶときに誰か個人として契約するのではなく、〇〇株式会社という法人が主体となって契約することができます。
法人は会社以外にも、監査法人や税理士法人など、様々な形があります。法人の一類型として、「会社」という形があるのです。
1-2.会社は「出資者の利益を追求する法人」である
では、会社は他の法人と何が違うのでしょうか。法律によるとそれは、会社は出資者の利益を追求するために存在しているということです。夢のない言い方をすると、「カネ儲けのハコ」ということです。法律でそう決まっているのだからそれでいいのです。
会社は出資者(株主)からお金を預り、一生懸命事業をして、儲かった利益を出資者に配当として還元します。会社はそのために存在します。つまり会社は出資者のものであり、出資者のために日々汗水流して働いているのです。
これだけ聞くと何だか国会前でシュプレヒコールを上げたくなってきますが、もう流行ってないのでやめておきましょう。
実際には、お客様に価値を提供し、優秀な従業員が辞めないだけの給料を支払い、優秀な役員が力を発揮するだけの役員報酬を支払い、さらに銀行に借金を返した残りが利益ですので、いわば最後の残りカスが投資家の取り分です。そう考えると何だか溜飲が下がりますね。お前らは魚の骨でも食っていろと。
1-3.出資者の権利の源
さて、そうはいっても出資者は会社の支配者であり、会社は出資者に利益を還元するために日々働いているわけですが、出資者はなぜそんなに権限を持っているのでしょうか。法はなぜそんなに出資者の肩を持つのでしょうか。やっぱりお金持ちが好きな政治家のさじ加減でしょうか。国会前で騒ぐべきでしょうか。
そうではなく、結局のところ出資者がお金の出し手だからです。会社は出資者がお金を出資し、これを元手に事業を開始します。その過程でまず役員を雇うわけですが、役員は出資者に代わって事業に投資し、お金を増やしていきます。
どんなに優秀な経営者がいたとしても、どんなに世の中に求められているビジネスモデルがあったとしても、最初に出資者がお金を出してくれないと、何も始まりません。素晴らしい経営の才能やビジネスプランが埋没すると、経済全体が活性化しません。本当に「何も始まらない」のです。これでは社会全体が停滞してしまいます。
そこで、お金のあるけど経営の才能はない、という人でも、自分の財産を経営者にあげるのではなく、預けることで、経済に貢献する道が作られました。もちろん事業ですから、失敗することがあります。この場合、他人である経営者の手腕が悪かったせいだとしても、損は出資者が被ります。そのようなリスクを負っている代わりに、出資者には会社を自由にし、利益を受け取る権利が保証されているのです。
1-4.株式会社の特徴
さて、会社といっても、大きく分けて2つあります。1つは出資者に「株式」を渡す株式会社、もう1つは渡さない持分会社です。
細かい違いは割愛しますが、要するに株式会社とは「株式」というものが出資者に渡されるわけです。というか株式を持っている人が出資者ということになります。この株式を持っている人を「株主」と呼びます。
では次に、この「株式」とは何かを見ていきましょう。
2.株式とは何か?
2-1.みんなで会社を所有する
株式とは、いわば様々な権利が与えられる国籍のようなものです。日本人の国籍を持っていれば選挙で投票できますし、様々な行政サービスを受けることができます。同じように、株式を持っていることで、会社の最高意思決定機関である株主総会の議決権が行使できますし、配当を受け取ることができます。会社法はこれを株主の権利として保証しています。
さて日本国の所有者は誰でしょうか? 天皇陛下だ!というお茶目なご意見も私は尊重はしますが、日本の国民一人ひとりであることが憲法で定められています。私が決めたのではありませんから街宣車で抗議に来ないでください。
コンプライアンス対策はこのぐらいにして話を戻しましょう。国の所有権が国民に均等に配分されているように、株式会社の所有権も原則として株式に均等に配分されています。なぜなら株式会社は巨大すぎて、一人の株主では持ちきれないからです。本稿執筆時現在のトヨタ自動車の株式時価総額(株主に帰属する【会社の価値】)は約21兆円であり、アラブの大富豪でも一人では持てませんが、トヨタではこれを約32億株に分割することで、1株あたり6,500円程度にしています。これなら高校生でも持てますね(実際には100株単位で買うのでそう簡単には買えませんけど)。
このように、会社は発展すればするほど1人では持ちきれなくなります。そのため、会社の所有権を分割して、みんなで持てるようにしたのが「株式」なのです。
2-2.株式はいくつでも持てる
株式は国籍とは異なり、1人いくつでも持つことができます。
株式をたくさん持つためにはその分お金を投資する必要がありますが、代わりに議決権や配当受領権も大きくなります。単純に、2倍の株式を持っている人は2倍の議決権と2倍の配当を得る権利が保証されます。
全部の株式を持っていれば、完全支配といって、会社を完全に思い通りにすることができます。
2-3.株式は価値が変動する
株式は議決権の分だけ会社の資産をコントロールできますし、会社が溜めている「内部留保」を将来の配当という形で受領できます。内部留保とは利益剰余金のことで、利益を上げた後に配当しない分のことです。
なぜ配当しないかというと、配当せずにその資金を再投資した方が将来の利益が増えると判断しているからで、その将来の利益期待は株価という形で反映されます。
株式市場では日々株価が変動していますが、これは会社の将来の配当期待が変動しているからで、言い換えれば将来の利益期待が変動しているということになります。投資家はトランプのツイッターを見るたびに不安になったり楽観したりするため、株価は大きく変動していきます。その裏には、将来の利益や配当に対する楽観と悲観が入り混じっているのです。
2-4.株式は売買できる
そして、株式会社のもっとも優れている点が、株主の立場をいつでも他人に売ることができるということです。
出資者はお金を会社に出資して会社を始めますが、すぐに配当で儲かるわけではありません。大概の場合、投資した額に対して配当は微々たるものであり、元本を配当だけで回収するには何年何十年とかかります。しかも、その間に会社が潰れてしまえば株は紙屑、倒産までいかなくても利益が出なければ配当はストップです。こんな割に合わない投資先に投資する人はよっぽどの物好き、いわゆる変態というものです。
しかし、株式が簡単に時価で売却できるとなると、投資家はいつでも投資を回収することができます。会社から配当をもらう代わりに、次の株主から株式代金をもらえばいいのです。このとき株式を買ったときよりも株価が上がっていればすぐに利益が出ますし、下がっている場合でも下がった分だけの損失ということになります。もし株式が売却できなかったら全額損するリスクがあるわけで、それに比べてずいぶん安心して投資できますよね。
この仕組みによって、株式は安心して投資される対象となり、それは会社が出資を集めるときにも安心して出資してもらう土台となります。こうして社会の隅々から余剰の資金が掻き集められ、フェアなルールでお金が必要な会社に投資されていきます。これが、株式会社が優れている理由になっています。
3.非上場会社の株式
ただし、株式が自由に売却できるのは、証券取引所に上場している会社のお話。日本企業の約99.8%を占める非上場会社の株式は簡単に売却することができません。その結果として、親族でもない非上場会社に出資する変態投資家は滅多におらず、ほとんどの会社のスタートアップは創業者の自己資金で賄われます。
とはいえ、ビジネスを順調に拡大し、経理をはじめとした管理体制を整えていけば、資金を投資してくれる「エンジェル」と呼ばれる人たちや、事業を高値で買収したいという大手企業やファンドからのお誘いもやってきます。そして上場できた暁には、多額の創業者利益が株主に転がり込む仕組みになっています。そんな夢を見ながら事業の活力にすることこそ、オーナー経営者の特権であり、経済活性化の源なのかもしれません。