経理も人の子ですので、ミスは付き物です。どんなに気を付けてもいつかミスは起こりますし、完全にゼロにすることは不可能でしょう。
しかし、それでもミスの発生率には明らかに個人差があります。優秀な経理パーソンはミスの発生率をかなり抑えるか、または極めて早期に発見してしまいます。
私も根はおっちょこちょいなので、最初はずいぶんとミスの多い人間でした。しかしあるとき、ミスを防止・発見するコツがつかめれば、ミスは大幅に少なくできることに気付いたのです。繰り返し作業の多い経理は特にその傾向が強いと考えています。
今回は、そのようなミスを防止・早期発見するためのコツをご紹介します。あくまでコツなので、実践してすぐに最大限の効果が現れるものではないですが、意識して業務に取り組んでいくことで、徐々にですが着実にミスは減っていくでしょう。
1.ミスを防止するメカニズム
1-1.ミスの真因を探せ
何かミスしたことを思い出して、その真因(真の原因)を考えてみましょう。
「不注意」は真因ではありません。なぜなら、注意しなくても同じミスが発生するとは限らないからです。注意すればミスを「発見」できたかもしれませんが、ミスの「発生」はそれ以前から存在します。
真因とは、もっと根本的な問題です。「これさえなければ絶対にミスは発生しえなかった」と言い切れるものが出てくるまで、原因を追究しましょう。
たとえば文字の入力間違いであれば、真因は「手入力でテンキーを押す必要があったこと」でしょう。誤ったデータを使ってしまったのなら、「よく似たデータが存在していたこと」かもしれません。前月のデータを更新し忘れていたのなら、「データの更新という作業が必要だったこと」ということになろうかと思います。
このように、ミスそのものではなく、まずはミスが発生した状況を分析し、根本的には何がミスを呼んでいたのかを検討します。
1-2.ミスの原因も対策も一様ではない
ミスを防ぐには、原因に応じた対策が必要です。
「手入力」にミスの原因があるならば、「値貼付け」への入力方法の変更や、「合計値の確認」などの適時にチェックする仕組みを整えておくことが考えられます。また、原因が「よく似たデータの存在」であれば「すぐに気付くようフォーマットを変更する」や「フォルダを分けて管理する」といった対策が考えられるでしょう。
ミスの対策は、ミスの原因に応じて様々に変化します。たとえば、ミスの原因が「読み間違い易い数字が並んでいた」ということであった場合、対策として「全部の数値を目視で見直す」ことを選択しても、時間ばかりかかってあまり効果がないでしょう。この場合は「合計値が一致するかをポカヨケで確認する」などが有効です。
つまり、ミスの原因がさまざまである以上、ミスの対策も様々です。ミスの原因にマッチした適切な対策が必要です。
1-3.適切な原因分析が適切な対策に繋がる
ミスの原因を短絡的に「不注意でした」で片付けてしまうと、その対策は「十分注意する」という漠然としたものになってしまいます。この場合、なんでもかんでも注意することになって、何が重要かわからなくなり、結局何も注意できていないことになります。
ミスの原因をしっかり分析し、真因に応じた適切な対策を用意すれば、本当に大切な対策を絞ることができます。これにより、過大な労力なく効果的なミス防止策を行うことができるのです。
2.ミス防止の思考ステップ
前置きが長くなりましたが、いよいよミス防止のコツについてご説明します。
ミスを防ぎ、また早期に発見するためには、ミスのリスクに対して「認識」「評価」「対応」の3つのステップで考えましょう。
Step.1 ミスのリスクを「認識」する
まずは、「こんなミスが発生しそうだぞ」というリスクの認識が出発点です。ミスそのものを認識するのではなく、ミスが起こる可能性を認識します。
これは究極的には経験に基づく嗅覚であり、ベテランほど有利なのですが、それでもミスのリスクを嗅ぎ取ろうと意識しているのとしていないのでは雲泥の差です。成長スピードもまるで違ってきます。
常日頃業務をしながら、「この作業にはどんなミスが起こりやすいだろうか」とか「以前同じような作業でこんなミスしたけど、今回も起こりうるだろうか」などと考えながら作業しましょう。徐々にですが確実にコツがつかめてくるでしょう。
Step.2 ミスのリスクを「評価」する
次に、認識したミスのリスクを評価します。つまり、そのミスの発生率や、発生した場合の他の作業への影響、間違えた場合の金額的重要性などを検討します。
ミスの発生率が高いようなら、特に集中力を高めて作業し、頻繁に自己チェックすることが必要になります。一方、頻度が低い場合は最後にまとめてチェックでもいいでしょう。
さらに、発生してもそう対して影響のないミスであれば、実は放っておいても問題ないかもしれません。
このように、ミスの発生率や重さに応じてメリハリをつけ、本当に重要なミス防止に全力を尽くすことが大切です。
Step.3 ミスのリスクに「対応」する
ミスのリスクを認識し評価したら、最後にそれに「対応」する方法を考えます。
「対応」には、そもそもミスを発生させない防止策と、早期に発見して影響を限定する早期発見策があります。そもそも発生させないことが理想ですが、必ずしも常に有効な防止策があるわけではないので、早期発見策も組合せながら対策を練りましょう。
ミスを防止・早期発見するには「対応」が必要なのは当然ですが、適切に対応するためにはミスのリスクの「認識」と「評価」が欠かせません。3つのステップが一貫性を持って連動して初めて有効なミス防止につながります。
3.いつか無意識にできるように
真因に合わせたミス防止や、その体現である3つの思考ステップは、最初はしっかり意識しながら実施しましょう。理論理屈は日々の業務の中で血肉になりますので、いつか息をするように無意識にできるようになります。
そのときまでは、本稿をときどき読み返し、自分がきちんとミス防止の思考ができているかを確認しながらスキルアップしてください。これが無意識にできるようになると、見違えるほど正確性が向上し、周りの人からの信頼も必ず上がっていくでしょう。
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