創立〇周年記念や新社屋の落成、年商の大台突破や株式公開などのタイミングで、従業員に対し慰労も兼ねて金品を配布することがあります。
このような記念品等に要した費用は、どのような経理になるのでしょうか。福利厚生費でしょうか、それとも給与でしょうか。
今回はその税務を踏まえた取扱いについて確認していきましょう。
本稿は公認会計士・税理士の古旗淳一が、一般的な取引を想定した私見を記載しております。
1.福利厚生費と給与の違い
まず福利厚生費とされるか、給与とされるかで何が変わるのか確認しましょう。
一番の違いは、給与には所得税がかかり、福利厚生費にかからないことです。所得税がかかるとどういうことが起きるかというと、
- 受け取った従業員側で所得税額が増える
- 渡した会社側でも源泉徴収しなければならない
- しかも社会保険料もその分増える
ということで、正直いいことなしです。(強いて言えば平均給与が上がってリクルートに有利ぐらい?)
なので、できれば福利厚生費であってほしいですよね。
2.税法上の規定
では、税法では両者はどのように区別されているのでしょうか。
具体的には、以下のように規定されています。
2-1.福利厚生費になる条件
福利厚生費になるための条件は、所得税法基本通達36-22[外部]で規定されています。
具体的には、以下の要件を満たすことが必要です。
①社会通念上記念品としてふさわしいものであること
あまり豪華なケースや現金、すぐに売ったりすることが前提の商品は、記念品にはなりません。
文房具や書籍であればまず問題ないでしょう。ロゴ入り商品も他の要件を満たせば福利厚生費になります。
②価格が1万円以下であること
1人当たり支給されるものの価格(時価)が1万円を超えると、「豪華すぎる」ということで所得税が課されます。
③定期・頻繁でないこと
創業記念のように一定期間ごとに到来するものについては、おおむね5年以上の期間ごとに支給されるものであること。つまり、毎年毎年「〇周年記念」として支給してはいけません。
2-2.給与になるもの
所得税法基本通達36-22[外部]や質疑応答事例[外部]を踏まえると、以下のように判定されると考えられます。
①現金
現金は一律で給与として扱われます。
②商品券、プリペイドカード、Quoカード
商品を自由に選択することができることから、現金を支給したことと同じですので、給与に該当します(質疑応答事例参照)。
③スイカ、パスモ
スイカやパスモは本来電車に乗るためのものですが、コンビニ決済など幅広く使用できることから、給与と判定すべきと考えます。
④カタログギフト
上記のように、「本人が自由に選択できるか否か」がひとつの判断基準になるため、カタログギフトのように選択の幅が広い場合は給与になると考えられます。
⑤当社のお買物券
小売業でありがちなのが、当社店舗のみで使えるお買物券を配布することです。
商品がある程度限定されるものの、購入できる商品の自由度はやはり非常に高いので、給与になる可能性が高いでしょう。
2-3.「自由度」はどこまで?
上記のとおり、選択の自由度が高い場合は給与になる可能性が高いです。
判断が難しいのが、どこまでの自由度があれば給与なのかという点です。
たとえば、ボールペン、シャープペン、消しゴムのうち1つが選べるとしても、それはかなり限られた自由度であるため、給与と認定される可能性はかなり低いと思われます。
この辺は実態判断ですので、税理士とも相談しながら、常識的に考えて給与にするほどの自由度があるか、という観点から判断することになるでしょう。
3.社史を作った場合は?
なお、社史を作って配ることがあります。社史の製作費用はどのように処理されるでしょうか。
3-1.社史は給与にも交際費にもならない
社史は正直もらっても嬉しくないですから、給与にはなりません。ちなみに社外の取引先に配っても交際費にはなりません。
福利厚生費の性格も弱いので、広告宣伝費か雑費で落として問題ありません。
3-2.社史の在庫は?
社史は配って初めて効果があるものなので、配る前は在庫として資産計上します。
ただ、創立〇周年の時期だからこそ価値があるもので、翌期になったら新入社員研修用程度の意味しかなくなることがほとんどです。
明らかに価値がなくなったものは税務上も損失処理できますので、在庫計上が求められるケースは稀であると考えます。
おわりに
今回は福利厚生費と給与の判定で紛らわしい、従業員への記念品について説明しました。
税法の運用は「常識的に考えてどうか?」という点が意外と重要になります。
この辺は保守的に考える税理士が多く、あんまり頼りにならないこともあるのですが、その分経理としてナチュラルな判断ができるようにスキルを磨いていきましょう。
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