簿記の初心者にとって小切手と同様に初期の難関になるのが「約束手形」の処理です。ただでさえ馴染みのないものなのに、振出人とか名宛人とか裏書とか割引とか、頭が痛くなる要素は結構あります。
そこで今回は、すぐに覚えられる「約束手形」の勘定科目の見分け方をご紹介しましょう。慣れればなんということもありません。
目次
1.約束手形の勘定科目の見分け方
約束手形の勘定科目を見抜く際のポイントは次の2つです。
- 自分で振り出した約束手形か、自分以外の人が振り出した約束手形か
- 金銭の貸し借りに関して振り出したものか、そうでないか
表にまとめると以下のとおりです。
自己振出 | 他人振出 | |
---|---|---|
金銭貸借以外 | 支払手形 | 受取手形 |
金銭貸借 | 手形借入金 | 手形貸付金 |
1-1.金銭貸借以外で、自己振出の手形の勘定科目
金銭貸し借り以外の取引で、自分で振り出した約束手形が出入りしたときは、支払手形勘定を使います。
その約束手形を振り出して渡した場合はもちろん、自分で振り出した手形が手元に戻ってきた場合も同様です。
1-1-1.約束手形を振り出して渡したときの勘定科目
約束手形を振り出して渡したときは、渡した相手に対して決済日にお金を支払う義務があります。そのため、支払手形という負債科目で処理します。
その手形が裏書きされた場合は、お金を支払う相手が手形の裏書人になるだけで支払義務がなくなるわけではないので、何ら仕訳は発生しません。(強いて言えば、「支払手形/支払手形」という仕訳になります)
1-1-2.振り出した約束手形が決済されたときの勘定科目
自分で振り出していた約束手形が決済されたときは、もうそれ以降お金を払う義務がなくなりましたので、支払手形の減少(消滅)で処理します。
最終的に手形を持っていて、お金を払った相手が誰かなんてことは関係ありません。誰に払おうが、支払義務がなくなった以上は支払手形勘定で処理します。
1-1-3.振り出した約束手形が返ってきたときの勘定科目
振り出した約束手形が返ってきたときは、手形代金を他人に支払う義務がなくなりましたので、支払手形の減少(消滅)で処理します。
もしその支払手形を、再度他人に渡した場合は、消滅していた支払義務が復活しますので、やはり支払手形で仕訳を切ります。
1-2.金銭貸借以外で、他人振出の手形の勘定科目
金銭の貸し借り以外の取引で、自分以外の他人が振り出した約束手形が出入りしたときは、受取手形勘定を使います。
振出人が誰であろうと、自分以外であれば同じことです。得意先が振り出した手形を受け取った場合も、赤の他人が振り出した手形を裏書きされた場合も、誰かしらから受け取る権利がありますので、受取手形勘定を使います。
1-2-1.他人振出手形を受け取ったときの勘定科目
振出人が他人である限り、受取手形で処理します。
名宛人(当初の受取人)は関係ありません。たとえば、得意先が振り出した手形を受け取り(名宛人は自分)、それを仕入先に裏書譲渡し、その後巡り巡ってまた自分の手元に戻ってきても、やはりすべて受取手形で処理します。
1-2-2.他人振出手形が決済されたときの勘定科目
持っていた他人振出の約束手形が無事決済され、お金が入金されたときは、もうそれ以上お金を受け取る権利はなくなったため、受取手形の減少(消滅)で処理します。
1-2-3.他人振出手形を裏書譲渡したときの勘定科目
他人振出の約束手形を裏書譲渡してしまった場合は、お金をもらう権利が他人に移ってしまったため、受取手形の減少(消滅)で処理します。
1-2-4.他人振出手形を割引したときの勘定科目
割引きは、約束手形を銀行に売却することですので、お金をもらう権利を銀行に譲ってしまったことになります。よって、受取手形の減少(消滅)で処理します。
1-3.金銭貸借で、自己振出小切手の勘定科目
金銭貸借で自己振出小切手を扱う場合は、手形借入金勘定で処理します。
単純に通常取引と区別するための勘定科目ですので、科目名が違うだけで、支払手形の場合と同じ話になります。
1-4.金銭貸借で、他人振出小切手の勘定科目
金銭貸借で他人振出小切手を扱う場合は、手形貸付金勘定で処理します。
こちらも単純に通常取引と区別するための勘定科目ですので、科目名が違うだけで、受取手形の場合と同じ話になります。
2.約束手形の勘定科目を見抜くコツ
約束手形の勘定科目を見抜く基本は、誰が振り出したか、と、金銭の貸し借りに関するものか否か、です。そのうえで、再掲する以下の表に照らして考えましょう。
自己振出 | 他人振出 | |
---|---|---|
金銭貸借以外 | 支払手形 | 受取手形 |
金銭貸借 | 手形借入金 | 手形貸付金 |
問題文をよく読めば上記のいずれに該当するかは必ずわかります。引っ掛けに騙されない、落ち着いて問題文を確認しましょう。
割引について
一点補足しておくと、自己振出小切手を割引に出すことは、実務上まずありません。割引問題は他人振出手形と考えましょう。
約束手形の関連問題
約束手形に関係する関連問題は以下のとおりです。論点整理の後に問題を確認しておくと、理解の定着がよりスムーズにできるようになります。
簿記3級レベル1問題
約束手形振出しの仕訳問題
商品100円を仕入れ、代金は約束手形を振り出して支払った。仕訳は?
約束手形受取りの仕訳問題
商品150円を売り上げ、代金は先方振出の約束手形で受け取った。仕訳は?
約束手形の裏書きの仕訳問題
商品100円を仕入れ、代金は以前に別の得意先から受け取った約束手形を裏書きして支払った。仕訳は?
裏書手形受取りの仕訳問題
商品150円を売り上げ、代金は別の店が振り出した約束手形を裏書譲渡された。仕訳は?
約束手形の割引きの仕訳問題
所有する得意先振り出しの約束手形100円を銀行で割引き、割引料10円を差引かれた90円を当座預金口座に入金した。仕訳は?
簿記3級レベル2問題
手形での貸し付けの仕訳問題
同業の事業者に対して現金100円を貸し付け、同額の約束手形を受け取った。仕訳は?
コメント
表がどちらも金銭貸借以外になっているのは正しいでしょうか?
ご指摘ありがとうございます。
お察しのとおり誤りでした。修正させていただきました。