
キャッシュフロー計算書は、実際に会計監査に耐えうるレベルまで作りこもうとすると、非常に複雑な処理をたくさん行わなければなりません。上場会社の経理パーソンであれば、ぜひともそこを最終目標にしていただきたいのですが、最初からあまり難しいことを連続で実施するとかえって混乱してしまいます。
そこで今回は、まだまだキャッシュフロー計算書は初心者だという方のために、簡単なキャッシュフロー計算書を作る手順をご紹介します。キャッシュフロー計算書作成のポイントをシンプルに理解できるようにしていますので、まずは実務の基礎をしっかりと固めましょう。
なお、簡単なキャッシュフロー計算書とは言っても、社内の資金管理や銀行説明等に求められる水準は十分クリアしています。非上場の会社であれば、これ以上のことをする必要はほとんどありません。
今回はキャッシュフロー計算書作成のベースとなる考え方を割愛しながら説明していきます。新しい読者の方々は、先に「初めてキャッシュフロー計算書の作り方を学ぶ前に読む話」を一読されることをお勧めします。
また、別記事にて上場会社が開示用に使っても問題ないレベルのキャッシュフロー精算表シートを公開しております。こちらをご確認の際は「キャッシュフロー精算表のサンプルシートと効率化ポイント」をご覧ください。
1.もっとも簡単なキャッシュフロー計算書の作り方
それではまず、もっとも簡単なケースから、キャッシュフロー計算書の作り方の流れを理解しましょう。
Step.1 B/S科目の増減を分析する
まず、前期末と当期末のB/Sを比較し、どの科目がいくら変動しているのかを計算します。まずは以下の例を用いて説明しましょう。
この例では現金預金が100増加しています。キャッシュフロー計算書では、この増加がどんな要因に起因するのかを明らかにするため、キャッシュ以外の科目の増減を「営業」「投資」「財務」の3つに分類していきます。
Step.2 B/S増減をキャッシュフローに換算する
次に、B/Sの増減額をキャッシュフローへの影響額に換算します。「資産の増加」はマイナス、「負債・純資産の増加」はプラスのキャッシュフローになります。
このB/S科目変動のキャッシュフロー換算について混乱してしまった方は、もう一度「初めてキャッシュフロー計算書の作り方を学ぶ前に読む話」を読み返してみてください。
Step.3 C/F科目に整理する
最後に、キャッシュフローに換算したB/S科目の増減を、それぞれ「営業」「投資」「財務」に分類します。基本的には、「営業」にはP/Lに直接かかわるもの、「投資」には固定資産等の投資、「財務」には有利子負債(借入)と純資産の増減(利益除く)を分類していきます。
ご参考までに、各分類の詳細については以下の記事にまとめておりますが、簡単に作る場合はそこまで意識する必要はありません。
▶経理が知るべき営業キャッシュフローの全知識
▶経理のための投資キャッシュフローについての大解説
▶経理が学ぶ財務キャッシュフローのすべて
「営業活動CF」「投資活動CF」「財務活動CF」を合算した「キャッシュの増減」が、B/Sのキャッシュ(現金預金)の変動額と一致すれば完成です。すべてのB/S科目の変動額をキャッシュフロー計算書に組み込めば、必ず一致します。これがキャッシュフロー計算書作成の基本になります。
次項以降は、中小企業でも必要な、ちょっとだけ複雑な調整を追加しましょう。
2.減価償却がある際のキャッシュフロー計算書の作り方
上記は固定資産は「土地」なので、減価償却が必要ありませんでした。しかし、他の固定資産を取得すると、減価償却費が計上されます。
減価償却費は費用として利益を減少させますが、資金が流出しているわけではありません。このような損益科目を「非資金損益項目」といいます。非資金損益項目は損益とキャッシュフローの差額であり、営業活動によるキャッシュフローに計上します。
それ以外はキャッシュフロー計算書作成の手順には変わりはありません。
Step.1 B/S科目の増減を分析する
今回は以下の例を使用します。
土地の代わりに建物になり、増減内容は減価償却費が▲100、新規取得が200となっています。
Step.2 B/S増減をキャッシュフローに換算する
B/S科目の増減をキャッシュフローに換算します。この点もまったく同一です。減価償却累計額は資産のマイナスですが、これも資産と同様に×▲1すればOKです。
Step.3 C/F科目に整理する
建物の増減のうち、減価償却による減少は営業活動によるキャッシュフローに、実投資である建物取得原価の増加額は投資活動によるキャッシュフローに分類します。
このように、同じB/S科目の変動であっても、変動理由によってC/F科目が変わります。固定資産はその最たる例ですので、増減分析することが必要になります。
なお、非資金損益項目には、減価償却費の他に「固定資産除却損」「減損損失」「敷金償却による原状回復費」などがあります。これらも減価償却費と同じように処理すれば問題ありません。
「貸倒損失」や「固定資産売却損益」も同様に調整が必要ですが、これらは処理方法が複雑な割にあまり発生しないので、別途記事を分けて解説する予定です。
3.未払金がある場合
未払金は、それが何のために発生したものであるかを分類します。以下の例をご覧ください。
上図のように未払金がある場合は、未払金の内訳を確認して、営業、投資、財務のいずれに該当するか検討します。
Step.1 B/S科目の増減を分析する
未払金の内訳を分析した結果、前期末は全額経費(販管費)の未払い、当期末は未払経費200と建物の取得額の未払い100でした。
Step.2 B/S増減をキャッシュフローに換算する
この手順はどんな場合でも変わりません。負債の増加はどんなときでもプラスのキャッシュフローです。
Step.3 C/F科目に整理する
最後に、未払金のうち「経費」に関する変動は営業活動によるキャッシュフローの独立項目(「未払金の増減」)にし、「固定資産投資」に関する変動は投資活動によるキャッシュフローの「固定資産の増加」に織り込みます。
固定資産の購入総額は200ですが、このうち100は当期末時点で未払いであるため、当期中に実際に支払った額は200-100=100であり、上図と一致します。
以上で完成となります。
なお、固定資産投資に関する未払金の増減を「固定資産の増加(購入)」と合算するのは、実際に支払った額を見せようとする厳密なルールに則った方法です。
非上場会社で社内の資金繰り管理資料として活用するのであれば、わざわざ合算せずに別掲する以下のような記載でも構いません。総投資額と未払額が読み取れるこちらのほうが資金管理しやすいかもしれません。
おわりに
今回は簡単なキャッシュフロー計算書の作り方を、少しずつ難易度を上げながらご説明しました。
非上場会社で、社内管理や銀行提出用に作成するなら上記の内容でほとんど十分です。細かいところで割愛したものは多いですが、貴社の財務状況をみて、重要なものはカスタマイズしていく気持ちで考えていただければと思います。
上場会社が公表用に作る場合はもっと複雑な調整が不可欠になりますが、上述の未払金の調整まで理解できていれば、あとは応用で厳密なルールやテクニックを覚えていくだけです。マスターはそう遠くありません。
キャッシュフロー計算書は確かに難しいですが、コツがわかってくるとB/SとP/Lからキャッシュを紐解くことがとても楽しくなってきます。ぜひその領域を目指して頑張っていただきたいと思います。
▶初めてキャッシュフロー計算書の作り方を学ぶ前に読む話
▶キャッシュフロー精算表のサンプルシートと効率化ポイント
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