
今回はキャッシュフロー精算表で資産除去債務の増減を振り替える方法を、計算用Excelシートを交えて解説します。
資産除去債務は非常に高度な会計で、なかなかとっつきづらい負債科目です。しかし、構造としては難しく考える必要はありません。「負債の増加はプラスのキャッシュフロー、負債の現象はマイナスのキャッシュフロー」という法則さえしっかり押さえておけば、意外と単純に理解することができます。
簡単にいうと、資産除去債務は「撤去費用の未払金」と考えましょう。科目の増加要因が少しだけ難しいですが、それ以外は未払金と同じです。
それでは以下からExcelシートをダウンロードして、資産除去債務のキャッシュフロー振替の考え方を確認していきましょう。
Y530 資産除去債務のキャッシュフロー振替シート ver.1.1.1(Excelファイル)
※マクロは一切使用しておりません
以下ではこのシートの使い方と、資産除去債務の増減差額のキャッシュフロー上の考え方について解説します。
1.資産除去債務のキャッシュフロー振替の考え方
資産除去債務の増加理由として、主に以下のものがあります。
今回は説明の便宜のため、「キャッシュフロー仕訳」を用いて解説します。キャッシュフロー仕訳の考え方については、「借方?貸方?キャッシュフロー仕訳を理解しよう」をご覧ください。
1-1.資産除去債務の増加理由とキャッシュフロー振替
資産除去債務の増加理由には以下のようなものがありますが、いずれも負債の増加なので、プラスのキャッシュフローとして扱います。
増加理由1.資産除去債務の新規設定(固定資産計上)
一番スタンダードなパターンで、貸方で資産除去債務を計上するとともに、借方で固定資産を増加させた場合です。
この場合のキャッシュフロー振替は、固定資産の増加をどのように処理しているかを調べ、そのキャッシュフローを打ち消す振替を行う必要があります。
当サイトでは、有形固定資産のキャッシュフロー振替シート&考え方において、見合いとなる固定資産の増加を「有形固定資産の取得による支出」にしています。
実際には支出の発生しない増加ですので、この「有形固定資産の取得による支出」を打ち消すプラスのキャッシュフロー(キャッシュアウトフローのマイナス)を振り替えます。
キャッシュアウトフローのマイナスという考え方がピンと来ない場合は、キャッシュフロー精算表の計算構造がスッキリわかる話をご覧ください。
増加理由2.資産除去債務の増加とともに「減価償却費」を計上
貸方で資産除去債務を計上しつつ、借方で減価償却費を計上することがあります。
これは資産撤去の直前に資産除去債務が計上された場合に起こる現象で、いわば耐用年数ゼロ年の固定資産が計上されるため、即全額減価償却されたものです。
これについても、固定資産のキャッシュフロー振替での減価償却費の取り扱いを確認する必要があります。「有形固定資産の取得による支出」と「減価償却費」を両建てしている場合は増加理由1に含めて「有形固定資産の取得による支出」にプラスキャッシュフローを振り替えます。
一方、固定資産のキャッシュフロー振替ではまったく扱っていないのであれば、固定資産のキャッシュフロー振替だけでは減価償却費(営業キャッシュフロー)の額がP/Lと一致しなくなるので、追加で計上してあげる必要があります。
増加理由3.減損損失
減価償却費と似たパターンで、借方に減損損失が計上されることがあります。
これは、計上すべき見合いの固定資産に回収可能性がなく、計上と同時に減損処理されたパターンです。
減価償却費と同様に、有形固定資産のキャッシュフロー振替でどのように扱われているか調べ、触れられていないようであれば以下のキャッシュフロー振替を行います。
増加理由4.利息費用による増加
資産除去債務特有の増加理由として、利息費用によって自然と残高が増加していきます。
利息費用は減価償却費と同じ資金の流出を伴わない費用(非資金損益項目)ですので、減価償却費と同様に、そのまま営業キャッシュフローの「利息費用」に振り替えるだけでOKです。
1-2.資産除去債務の履行による減少とキャッシュフロー振替
資産除去債務の主な減少理由は、ズバリ資産除去債務が使われることです。つまり、積み立てられていた資産除去債務が実際に取り崩されます。
この場合には実際に支出が生じていますので、「資産除去債務の履行による支出」などの科目で投資キャッシュフローに計上します。
1-3.履行差額のキャッシュフロー振替
過年度から引き当ててきた資産除去債務の額と実際の除去費用額に差がある場合、「履行差額」や「資産除去債務戻入益」などの科目で差額を調整します。
この調整の仕方によって、2パターンのキャッシュフロー振替が考えられます。
パターン1.両建て計上の場合
履行差額によって、一旦資産除去債務の額を調整する場合、資産除去債務の増減と相殺します。
パターン2.純額計上の場合
譲渡損益のように純額で計上する場合、資産除去債務の増減には反映されていないため、別途「資産除去債務の履行支出」の金額を調整します。
2.資産除去債務のキャッシュフロー振替シートの使い方
資産除去債務のキャッシュフロー振替シートは、上述の考え方に基づいて、増減理由ごとに数値を入力すると自動でキャッシュフロー振替が表示されます。
資産除去債務には短期と長期があって面倒なのですが、総勘定元帳を見ながら上図のように入力していくと、シート下部に下図のように適切な科目振替が表示されます。
この内容をキャッシュフロー精算表に入力していくだけです。簡単ですね。
上図右側の「CF仕訳」は借方をプラス、貸方をマイナスで表示しています。この表示方法については「貸借をプラスマイナスで表現すると決算作業がサクサク進む」で詳しく解説しています。
3.資産除去債務のキャッシュフロー振替シートについて
3-1.カスタマイズについて
資産除去債務のキャッシュフロー振替シートは総勘定元帳分析を前提に作成しておりますが、会社様の記帳方法や決算手法によってより効率化することが可能です。適宜カスタマイズしてみてください。
なお、弊社では業務フローや記帳ルールの改善も含めた経理高速化・効率化コンサルティングを実施しております。より効率的に業務改善を図りたい場合はぜひご連絡ください。
3-2.正確性について
実在する企業数社の実数値を用いて計算チェックを行っておりますが、あらゆる状況に対応していることを確認しているものではありません。必ず決算前に過年度数値を用いて、計算の正確性を確認してください。当計算シートを用いたことにより発生した一切の損害について、弊社では責任を負いかねます。
なお、計算式の不備やバグを発見された場合は、弊社までご連絡をいただけますと幸いです。
3-3.二次利用について
著作権は放棄しませんが、利用者様の責任において無申告で修正・改変することができます。
ただし、著作物への添付、セミナーでの配布、インターネットでの配布等につきましては、必ず弊社までご一報をお願いいたします。
3-4.質問対応について
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