
キャッシュフロー計算書は基本的に、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、そして財務キャッシュフローの3つから成り立っています。
営業キャッシュフローは損益から生み出されるキャッシュフロー、投資キャッシュフローは固定資産等の投資により発生するキャッシュフローでした。
では、財務キャッシュフロー(財務活動によるキャッシュフロー)とはどのようなキャッシュフローなのでしょうか。今回はその本質と、経理が知っておくべき内容について解説します。
営業キャッシュフローと投資キャッシュフローについては以下をご参照ください。
▶経理が知るべき営業キャッシュフローの全知識
▶経理のための投資キャッシュフローについての大解説
1.財務キャッシュフローとは
1-1.財務キャッシュフローは「入口」と「出口」
会社は株主や債権者(銀行など)から資金を集め(資金調達)、投資をし、運用することによって営業キャッシュフローを稼ぎ出します。そして稼ぎ出した資金を再投資に回したり、配当や返済などの手段で株主や債権者に還元していきます。
投資は投資キャッシュフロー、運用は営業キャッシュフローであり、その前後にある「資金調達」と「還元」に関する収支が財務キャッシュフローです。
会社を中心に一連の資金の流れからみると、財務キャッシュフローは入口と出口を示していると言えます。
1-2.B/Sの貸方に関する取引が基本
財務キャッシュフローは、基本的にB/Sの貸方、つまり負債と純資産の増減に関する取引を処理します。
負債といっても、買掛金や経費の未払金は営業キャッシュフローですので、借入金や社債などの有利子負債が対象になります。P/Lを通さずにオンバランスされるものと考えれば概ね間違いありません。
1-3.調整弁としての財務キャッシュフロー
経営判断では、「営業」「投資」「財務」の3つのキャッシュフローのうち、多くの場合では財務キャッシュフローが最後に検討されます。
営業キャッシュフローはビジネスの結果ですので、なかなか思い通りに行きません。ある程度コストダウンができても、最終的な水準を決めるのはお客様です。
投資キャッシュフローは、投資するかしないかの判断によりますので、営業キャッシュフローに比べれば自由度があります。しかし、現実問題としてオイシイ投資案件はそう簡単に見つからず、よい案件が来たら待ったなしで判断しなければいけません。よって、実際にはそこまで自由度があるものではないのです。
これに対し、財務キャッシュフローは比較的自由です。売上が好調でお金が余っていれば、繰り上げ返済や自社株買いなどで多めに還元することができますし、大規模投資に恵まれてお金が必要になれば、借入なり増資なりで資金調達するという判断になります。
また、お金に色はないので、銀行借入、社債発行、増資、転換社債など、様々な手段から最適な資金方法を選べます。
このような自由さから、財務キャッシュフローは、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの状況に合わせて調整されます。いわばキャッシュフローの調整弁として機能するのです。
2.財務キャッシュフローの適正水準
このような調整弁としての機能を有する財務キャッシュフローですから、適正水準は営業キャッシュフローと財務キャッシュフロー、そして期首と期末の現預金残高の状況によって左右されます。
2-1.財務キャッシュフローがプラスの場合
財務キャッシュフローがプラスということは、還元よりも資金調達のほうが大きいということです。会社規模が大きくなっているフェーズでよく見られます。
2-1-1.プラスの発生要因
資金調達が必要な要因として、主に以下の可能性が挙げられます。
- 自己資本比率を調整している(負債を増やして純資産を減らすなど)
- 大きな投資のために資金が必要
- 事業の運転資金が必要
- 事業の赤字を補填する資金繰り
2-1-2.発生要因別の評価
1の自己資本比率の調整は上場会社でよく行われます。キャッシュインとキャッシュアウトが生じるため、行ってこいでプラスマイナスに大きな影響はありません。
2の大きな投資のために資金が必要というのはよい要因です。もちろん有効な投資でなければいけませんが、会社が成長するときは必ずといっていいほど必要なものです。
3の事業の運転資金は少し要注意です。売上が伸びているときは運転資金も必要になるため確かに必要になります。一方で売上が減っている場合は本来必要がなくなるもののはずです。売上が横ばいまたは減っているのに運転資金が必要なのであれば、売掛金や在庫の滞留が潜んでいる可能性があります。間接法の営業キャッシュフローをよく分析しましょう。
4の営業の赤字を補填するというのはよからぬ要因です。リーマンショックのような不況期であれば、今を乗り切るために必要な資金かもしれませんが、単に需要がなくなってビジネスとして先細っている可能性があります。赤字が経常的なものか一時的なものか、どのような復活の見込みがあるのかなどを確認する必要があります。
(ただし、調達した資金でリストラを敢行し、倒産寸前の会社を再生させるケースもあるので、一概に悪いとは言えません)
2-1-3.平常であれば適正は投資額+α
このように、プラス要因の発生原因によってケースバイケースのため一概に適正水準を提示することはできませんが、強いて言えば、2の投資額に若干の運転資金需要を考慮した「投資額+α」が平常時の適正水準ではないかと思います。
もちろん赤字の状況においてこの水準にこだわっていては倒産しかねません。あくまで、外部から観察したときに平常であればどの水準かという目安です。
なお、監査を受けない非上場の場合は3の運転資金対応による借入が大きく膨らんでいるケースをよく見ます。これは本来損失(4)にすべきところを、在庫の水増しなどで無理やり利益計上していることによるものです。
損益の粉飾は簡単にできますが、キャッシュフローの粉飾はなかなかできません。キャッシュを見ればほとんどのことはわかってしまいます。
2-2.財務キャッシュフローがマイナスの場合
財務キャッシュフローがマイナスであっても何ら問題ありません。営業活動で得たキャッシュを株主に還元するのは株式会社の本懐ですし、借入金や社債の繰り上げ償還は将来の資金繰りや利息費用を減少させる、ある意味では投資のようなものです。
ただし、稀に借りたくても銀行が貸してくれず、ただ過去の返済だけが計上されている場合もあります。このような場合はかなり苦しい財務状況と言わざるを得ません。
もっとも、そこまで危機に瀕している場合はリスケジュールや債権カットなど企業再生の領域ですので、財務キャッシュフローに現れた時点で危機を予知する段階は過ぎていることが多いでしょう。やはり危機を予知するとすれば、P/Lと営業キャッシュフローのほうが優れています。
2-3.金額以上に科目が重要!
キャッシュフロー計算書を分析するときは、財務キャッシュフローはトータルの金額以上に、どのような科目があっていくらお金が動いているかを重視しましょう。
会計数値を読むときは、合計額で大掴みすることは非常に重要なのですが、調整弁である財務キャッシュフローに限ればそこまで重要なことではありません。それ以上に、足りなくなった資金をどのように調達しているか、余剰となった資金をどのように還元しているかといった、会社の財務活動そのものに迫ることが重要になります。
財務キャッシュフローを読み慣れてくると、会社の資金繰りの息遣いが段々聞こえてきます。そこから、会社が今どのような状況にあるかが肌感覚として理解できるようになるでしょう。
3.財務キャッシュフローの科目・項目
財務キャッシュフローの科目・項目には、たとえば以下のようなものがあります。経理としてはしっかりと把握して、あらゆる取引に対して対応できるようにしておきましょう。
3-1.短期借入金の純増減額
1年未満の期間の短期借入金がいくら増減したか、その純額を表示します。
基本的に収入と支出の総額を表示するキャッシュフロー計算書では珍しい純額表示です。
これは、短期借入金は数カ月単位で借り直し(返済と同時に同額を借り入れる)ことが多いため、総額表示すると無駄に金額が膨らんでしまい、却って実態が分かりづらいという理由によるものです。
3-2.長期借入れによる収入/長期借入金の返済による支出
1年超の長期借入金を借入れたり、返済した際に使う科目です。短期借入金とは異なり総額表示します。
3-3.社債の発行による支出/社債の償還による支出
長期借入金の社債版です。「発行」「償還」という言葉を使うことが特徴です。
3-4.リース債務の返済による支出
ファイナンスリース取引で資産売買に準ずる会計処理を行っている場合、発生する「リース債務」は長期借入金と同じ扱いになります。したがって、財務キャッシュフローです。
基本的に収入はないので(現金ではなく資産を受け入れる)、支出科目しかありません。
なお、オペレーティングリース取引で発生する費用は、そのまま営業キャッシュフローで処理します。
3-4.株式の発行による収入
新株を発行して払込額を受け入れたときに計上する科目です。
3-5.配当金の支払額
配当金を支払ったことにより資金が流出した際に使用します。株式会社の本懐といっていいキャッシュフローでしょう。
なお、連結決算においては、この科目は親会社が実施した配当にのみ使用します。子会社に親会社以外の非支配株主(少数株主)がいる場合は、次の科目を使います。
3-6.非支配株主への配当金の支払額(連結決算のみ)
子会社が非支配株主(子会社の株主のうち、親会社以外の株主)へ支払った配当金は、この科目で処理します。
子会社が親会社に支払った配当金は連結グループ内を移動しているだけですので、連結キャッシュフロー計算書には記載されません。(個別キャッシュフロー計算書には記載されます)
3-7.自己株式の取得による支出/自己株式の売却による収入
自己株式(取得した株式会社自身が発行した株式)の取得は、実質的には資本の払戻し(株主に株式と引き換えにお金を払う)であるため、財務キャッシュフローとして扱います。
自己株式を売却した場合も、新株を発行した場合と実質的には同一(新株主に株式を交付しお金をもらう)ですので、こちらも財務キャッシュフローになります。
3-8.連結範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出/売却による収入(連結のみ)
連結関係を維持したまま一部の株式を取得したり(Ex.80%→100%)、逆に取得したりした場合は、連結範囲の変更を伴わない子会社株式の売買になります。
このような取引は、かつては投資キャッシュフロー扱いでしたが、連結決算に関する考え方が変化し、現在は財務キャッシュフローとして処理することになりました。
かつては親会社の視点から連結グループを捉える考え方(親会社説)が主流だったため、連結子会社の株式はすべて投資対象とされていました。しかし現在は、連結グループ全体を1つの共同体として捉える考え方(経済的単一体説)が欧州を中心に主流となり、子会社の株主との資本取引は連結全体で見ても財務取引であろうという捉え方が強くなっています。
なお、連結範囲の変更を伴う子会社株式の売買は、引き続き投資キャッシュフローです(新しく連結子会社を作るのは投資活動として考えられている)。この点は以下の投資キャッシュフローの特集でご確認ください。
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